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日本サッカーがはじめて出会った「世界」 ─ 1936年 第11回大会(ベルリン) ─

初めて日本人選手が派遣されたストックホルム大会から遅れること16年、日本サッカーのオリンピックへの挑戦は、このベルリン大会から始まる。
早稲田が母体となったこのチームは、下馬評をくつがえし優勝候補のスウェーデンを破り、後に「ベルリンの奇跡」と呼ばれる日本サッカー史上不朽の逆転劇を演じるのである。
チーム編成の背景には、十分な経験や期間が取れない中で選抜チームが機能するのは難しいとする判断があり、昭和8年(1933年)以来連続学生王座の位置を確保している早稲田を主体とする決定は当然のことであった。
総監督にはア式蹴球部草創期メンバーである鈴木重義(大正15年卒/故人)、コーチにはア式監督の工藤孝一(昭和8年卒/故人)、選手は18名中12名が早稲田という布陣であった。
参加国は16カ国、予選はなくノックアウト方式の本大会を戦うことになる。

遠征先で知ったスリーバック

大会前の調整でベルリンのクラブチームと対戦するが、そこで日本ではまだ知られていなかった新システム「スリーバック」を体験することになる。早稲田では以前からCHが守備的なプレーをするなどの工夫がされており、その経験からサッカー先進国のシステムにも臆することなく対応、3つの練習試合でスリーバックを身につけて本番に臨んだのである。

粘り強い守備とカウンターから大金星

戦前の予想は、技術・戦術ともに優れたスウェーデンの圧倒的優位。前半は全く予想通りの展開で、試合巧者のスウェーデンは必死になって動きまわる日本チームを翻弄し2点をとってしまう。しかし諦めない日本、ハーフタイムに鈴木総監督は「今日は皆の調子が良い。後半頑張ればきっと勝てる。」と言ったそうだが、後半開始早々、加茂弟(正五・昭和14年卒/故人)のパスをうけた川本(昭和12年卒/故人)がゴールを決めると、そこから連続攻撃がスタートする。62分同点に追いつくと、場内のボルテージも最高潮に。ドイツの観衆からも日本を応援する声が上がった。その後、スウェーデンに何度も攻め込まれるが、GK佐野(昭和13年卒/故人)はゴールを割らせない。そしてついに85分、松永のドリブルシュートが決まり待望の3点目、逆転に成功する。残り時間は5分、日本はスウェーデンの実況アナウンサーに「ここにも日本選手がいる。ここにも日本選手・・」と言わしめたほどの豊富な運動量で、怒涛の攻撃をしのぎきり大金星を上げたのである。

世界最強国イタリアへの挑戦

中2日で行なわれたイタリア戦、前半こそスウェーデン戦と同様0-2で折り返したものの、後半はスウェーデン戦で消耗しきった体力を回復させることができず防戦一方、厳しいタックルやダイレクトプレーに悩まされ、終わってみれば0-8と大敗を喫してしまった。
イタリアはその後、準決勝でノルウェーを2-1(延長)、決勝ではオーストリア・アマチュア代表を2−1(延長)で破って金メダルを獲得している。

(敬称略)


《こぼれ話》
今でこそ、14・5時間もあれば行けるベルリンですが、交通網も発達していない時代のこと、6月20日に東京駅を出発し、朝鮮半島から満州鉄道、シベリア鉄道と乗り継ぎ、2週間もの時間をかけて7月3日にモスクワ経由で到着しています。
選手団はオリンピック終了後、ドイツ各地、英国・フランスなどで親善試合を行ない、その後マルセイユから船で途中エジプトやインドなどを経由して帰路についています。選手団に同行した東亜日報社のスナップ写真では、選手たちのくつろいだ中にも引き締まった表情や、当時の世界の様子を垣間見ることができます。
[高島保夫氏(昭和11年卒/故人)所蔵の公式アルバムの一部をページ下段にて公開しています。]
 
川本泰三氏着用の代表ユニフォーム日本人オリンピック初ゴールは川本泰三氏(昭和12年卒/故人)
日本サッカー史に燦然と輝くオリンピックでの日本人初ゴール。
この1点を皮切りに猛攻の狼煙をあげ、金星を引き寄せたのです。
[川本氏着用の代表ユニフォームが、日本サッカーミュージアムに展示されています。(ご子息川本章夫氏(昭和51年卒)寄贈)]
 
負傷しながらも最後まで戦った堀江忠男氏(昭和11年卒/故人)
選手交代が認められていなかったと、今にしては考えられない時代、右FBで出場していた堀江氏は、15分に右腕を骨折するというアクシデントに見舞われるも、そのままプレーを続行しています。


ベルリン・オリンピックに参加したのは、早稲田を中心とした学生主体の若いチーム、世界を相手に堂々と戦い、日本サッカーの礎となる1歩を踏み出した。しかし、時代は戦争へと大きくシフトしていき、日本サッカー界は大きな空白の中に放り込まれるのであった。
 

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